チョウテイが上海からやってくるよ

上海に留学していた最後の半年間、中国人のルームメイト二人と僕とでアパートを借りてシェアをして暮らしていたことがある。あれからもう8年になる。

その頃のルームメイトの一人、チョウテイが来月仕事で日本にやってくる。

アパートの家賃は2000元。僕が半分の1000元を出してリノリウム床に木箱で部屋の隅にあつらえたベッドのある部屋を使い、二人はもう一つの少しだけ広いほうの部屋をパイプベッド2つを並べて使っていた。

それまでは大学の寮に日本人のルームメイトと二人で暮らしていた。けれど寮といってももともと大学へやってくる来賓宿泊用の賓館を外国人の寮として使っていた物だから、設備自体は悪くないがいわゆる普通のツインルームだったから、長期間二人でクラスには不向きに思えた。

一人分の寮費よりも少ない出費でアパートの部屋を一人で使えるというのは魅力的だったし、なにより普通の中国人の生活の中に溶け込んで暮らしてみたいという希望がかなうのがうれしかった。

留学生の多くは互相学習といって、自分の国の言葉を学んでいる中国人の学生と時々食堂などにお互いの教科書を持ち寄っては、言葉を教えあうことをしている。これなら家庭教師を頼むように費用は必要ないし、友達として普段から接することでもちろんお互いの言葉も上達する。

そんなわけで、僕が通っていた学校の向かいにある外国語大学の日本語学科の女の子と週に何度か食堂で辞書を広げていた。

彼女たちは一つの部屋に2段ベッドを4つも置いた寮に住んでいた。彼女たちからすれば2人でそこそこの広さの清潔な部屋に暮らしている僕らが学外のアパートに住みたがるのは益々贅沢に見えたかもしれない。けれど僕からすればいっそ8人の仲間が和気あいあいと暮らす寮の方が楽しそうだった。

アパートを見つけるには日本と同じように不動産屋を回ることになる。
日本のように部屋の図面というのは店頭にはほとんどない。
「2室1亭 20平方米」と書かれていれば2Kで20?の広さがあるという意味。
あとは建物のある地区が書かれている程度。

実際に不動産屋の人と何軒もアパートを見て歩く。それらはほとんどが家具付きというのも中国の貸しアパートの特徴かもしれない。

すでに何人かの留学生はそういったアパート探しをしていたけれど、なかなか苦戦しているのを知っていたから、彼女に不動産屋周りを手伝ってくれないかと頼んでみた。

そうして最初に見た物件はいきなり条件にあうものだった。なにより大家さんは気の優しいおばあさんで鍋とか必要な家財道具があればなんでも用意してくれるという。部屋も清潔で風通しがよかったので一度で気に入ってしまった。

大家さんは僕が外国人というのも特に気にしているようではなかった。中国に来てよく思うのだけれど、言葉の問題をのぞけば外国人だからといって特別に接されたりした経験はほとんど無い。西洋人ならまた違うのかもしれないけれど、それにしても抵抗感がほとんど感じられないのは逆に驚かされることがある。これは僕が勝手に想像することだけれど、他民族国家であるがゆえ少々の顔や言葉の違いも受け入れる習慣というか感覚が強いのではないかしら。

そうして部屋が決まったと思っていたら、彼女から思わぬ提案をうけた。
自分と友達とあなたと、3人でシェアしないかというのだ。

えぇ・・・!

突拍子もない提案だったけれど、玄関の中はキッチンを通ってドアが二つに分かれているし、中国人と一緒に生活をするのは言葉を学びに来ている僕からしたら願ってもなかなか得られない環境だった。僕はそのときには結婚していたので二人にしても抵抗は感じていないようだった。

そうして勉強友達の彼女が連れてきたもう一人のルームメイトがチョウテイだった。